九変篇・その一。
1君命に受けざる所あり
孫子曰ク、オヨソ兵ヲ用ウルノ法ハ、将(ショウ)、命(メイ)ヲ君(キミ)ニ受ケ、
軍ヲ合(ガッ)シ衆ヲ聚(アツ)メ、圮地(ヒチ)ニハ舍(ヤド)ルコトナク、衢地(クチ)ニハ交ワリ合(ガッ)シ
絶地(ゼッチ)ニハ留マルコトナク、囲地(イチ)ニハスナワチ謀(ハカ)リ、死地(シチ)ニハスナワチ戦ウ。
塗(ミチ)ニ由(ヨ)ラザル所アリ。軍ニ撃タザル所アリ。城ニ攻(セ)メザル所アリ。
地ニ争ワザル所アリ。君命(クンメイ)ニ受ケザル所(トコロ)アリ。
将帥は君主の命を受けて軍を編成し、戦場に向かうのであるが、戦場にあっては、次
のことに注意しなければならない。
1.「圮地(ひち)」すなわち行軍の困難なところには、軍を駐屯させてはならない。
2.「衢地(くち)」すなわち諸外国の勢力が浸透しあっているところでは、外交交渉に重き
をおく。
3.「絶地(ぜつち)」すなわち敵領内深く侵攻した所したところには、長くとどまってはならない。
4.「囲地(いち)」すなわち敵の重囲におちて進むも退くもままならぬときは、たくみな計略を用いて脱出をはかる。
5.「死地(しち)」絶体絶命の危機におちいったときは、勇戦あるのみ。
以上の五原則は、別の角度から見れば、次のようにまとめることができる。
1.道には、通ってはならない道もある。
2.敵には、攻撃してはならない敵もある。
3.城には、攻めてはならない城もある。
4.土地には、奪ってはならない土地もある。
5.君主には、従ってはならない君命もある。
地形によって戦術を変化させることはもちろん、たとえ王の命令であっても
前線での指揮は現場の将軍が握っていなければ勝利はおぼつかない。
組織の中で重要なことは地位の上下よりも権限の上下の方が優先されなければならないということだろうか。